アメリカン・アールデコ・コレクション

2014.05.02
 
 

コレクションシリーズ vol.13

American Illustration アメリカン・イラストレーション30s

American Illustration アメリカン・イラストレーション30s(フライヤー・イメージ)

American Illustration アメリカン・イラストレーション30s(展示会場)

アメリカにとって20世紀初頭は、技術革新とともに、生活のあらゆる分野において変革がもたらされた時代にあたる。多様な産業の発展の中でもメディアの発達は国土の広い国において大きな意味を持つものだった。1910年代から30年代にかけ、マスメディアの主役は新聞や雑誌といった印刷物やラジオであり、これらの圧倒的な普及は大衆に豊富な知識と情報を提供し、市場に対して大きな力を持つまでになったのである。

当時の出版業界の目覚ましい発展には、雑誌など出版物のビジュアル化が重要な役割を果たしています。19世紀には大幅なコストを要した挿絵(イラストレーション)は、カラー印刷の登場によって身近なものとなり、同時に現代では想像しがたい程の強い宣伝効果を持った。大判で色彩にあふれた表紙と挿絵、そして掲載される広告は、大衆を魅了した。目ざとい広告主は工夫を凝らした広告を次々と掲出し、増え続ける広告収入で雑誌自体はより低価格に買いやすく、同時に誌面はより華やかなものとなった。

この相乗効果は莫大な利益をもたらし、雑誌出版はビジネスとして急成長を見せた。印刷業界の発展とともにイラストレーションはさまざまなニーズに応じて百花繚乱の様相をなし、売れっ子のアーティストはイラストレーターとして出版業界に欠かせない存在となった。彼らの作品は時に雑誌や商品の売上を左右するほどの力をもち、こうしたメディアは芸術家の発表の場ともなっていったのである。また雑誌だけでなく、1930年代に入るとルーズヴェルトの経済政策の一環として、芸術家支援プログラムが組まれ、観光ポスターなどにも多くの芸術家が起用された。鮮やかで強い個性を持つ当時の観光推進ポスターの多くは、最小限のコピーとイラストのみで構成され、その感覚は現代においても十分に目を惹くものばかりである。

主な作品

雑誌「フォーチュン」表紙 雑誌「フォーチュン」表紙

雑誌「フォーチュン」表紙/1938年
総合情報誌「フォーチュン」には当時の産業や社会情勢を象徴する表紙が採用されている。この号では1930年代後期のアメリカにおいて急速にインフラが整備される様を、複雑に交差するハイウェイをモチーフに表現している。この頃ニューディール政策の一環として道路、橋梁などが数多く建設され、人々の交通手段も大きく変化した。(写真上左)

雑誌「フォーチュン」表紙/1935年
この号では1930年代当時の街の様子をかいま見ることができる。スーツにスタイリッシュな帽子できめた紳士の面々が、新聞を読みながら制服姿のスタッフから靴磨きのサービスを受けている。株価にでも目を通しているのだろうか。新聞や雑誌などメディアの発達は人々に1920年代とは比較にならない豊富な分野の情報を提供した。(写真上右)

雑誌「コリアーズ」表紙 ポスター「ニューヨーク・ワールド・フェア」

雑誌「コリアーズ」表紙/1938年
1930年代は第一次世界大戦を機に、社会に目を向けはじめた女性の社会進出が大きく進んだ時代でもある。雑誌などメディアのターゲットも従来の男性だけでなく、新しい市場をつくりあげつつあった女性へと広がっていった。カラー印刷が容易になった当時の女性向け雑誌には、最新のファッションや化粧品などが華やかに取り上げられた。(写真上左)

ポスター「ニューヨーク・ワールド・フェア」/1940年
1939年から40年に開催された「ニューヨーク・ワールド・フェア」は未来のアメリカをテーマにした一大イベントだった。初日だけで20万人が入場したというこの歴史的万国博覧会の広報には、多くのアーティストが起用され何種類ものポスターが残されている。ポップなイラストが印象的なこのポスターは会期後半に制作されたもの。(写真上右)

ポスター「サンフランシスコ万博インディアンコート」 雑誌「サタディ・イブニング・ポスト」

ポスター「サンフランシスコ万博インディアンコート」/1939年
1930年代には「ニューヨーク・ワールド・フェア」だけでなく、経済発展を促すイベントとして数多くの博覧会が開催された。サンフランシスコ万博の広報ポスターとして制作されたこのポスターはルイズ・シーグリストの作。インディアンの生活をモチーフにした愛嬌のあるイラストは、すっきりした色使いでモダンなポスターに仕上がっている。(写真上左)

雑誌「サタディ・イブニング・ポスト」/1939年
優れたイラストレーションで大きく売上を伸ばした雑誌の一つが「サタディ・イブニング・ポスト」である。毎号親しみとユーモアを感じさせるイラストが表紙を飾り、多くの優れたイラストレーターの活躍の場ともなった。この号では車道の水はねをよけようとする若い女性の表現が巧み。帽子から靴まで最新のファッションスタイルにも注目したい。(写真上右)

ポスター「テキサス百年祭」 ポスター「ハワイ」

ポスター「テキサス百年祭」/1936年
大胆なレイアウトと個性的な表現が、当時のデザイン感覚とアメリカ独自の個性を感じさせるポスター。1920年代にヨーロッパで流行したアール・デコ・スタイルを取り入れたアメリカでは、当初複雑な幾何学模様が流行したが、1930年代に入ると産業の発展や機械化の影響を受け、より単純で力強いグラフィック表現が主流になっていった。(写真上左)

ポスター「ハワイ」/1940年代
1930年代のインフラの整備や交通機関の発展は、人々の生活と意識に大きな変化を与えるものだった。経済発展とともにリゾート地で過ごすバカンススタイルが中流階級の憧れとして流行し、ハワイは南国のリゾート地として人気を集める。シンプルなコピーとモチーフの大胆なレイアウト、濃厚な色使いは、南国のイメージをよく伝えている。(写真上右)

デザインミュージアム・コレクションシリーズ vol.13
「American Illustration アメリカン・イラストレーション30s」
アメリカン・アール・デコ・コレクションをシリーズで紹介する企画、vol.13は「American Illustration アメリカン・イラストレーション30s」と題し、優れたグラフィックで1930~40年代にかけてさまざまな分野に登場した当時のイラストレーション作品約80点を展示、公開。「サタディ・イブニング・ポスト」や「フォーチュン」の表紙を飾ったモダンなイラストレーションをはじめ、急速に拡大した市場の中で活躍したアーティストによる作品の数々のほか、当時の旅行ブームから人気を集めた南国モチーフのイラストレーションなど、1930年代の世相を反映した個性的な作品の数々を紹介。

会期:2008年3月14日(金)~4月13日(日)
会場:国際デザインセンター・デザインミュージアム
主催:株式会社国際デザインセンター