アメリカン・アールデコ・コレクション

2013.02.15

アメリカン・アール・デコと幾何学模様

幾何学模様のトレイ/1933年/コロナ・グラス社

書籍「ブック・オブ・キャンプ・ファイヤー・ガールズ」/1936年

幾何学模様のライター/リジェンズ社/1935年


 


いずれもコレクションギャラリー(コレクションタワー内)で展示中

アール・デコの最大の特徴は抽象的な幾何学模様とコントラストの強い色使いである。アール・ヌーヴォーが優美で曲線的な植物や女性のフォルムを取り入れたのに対し、アール・デコは自動車や船のフォルム、またそのパーツであるエンジンや歯車といった機械的なモチーフにインスピレーションを得て生まれたと言っていい。その誕生にはどのような背景があったのだろうか?

 1925年、アール・デコの名前の由来となったパリ国際装飾美術・産業美術博覧会(Exposition des Arts Deoratifs et Industriels)に1つのパビリオンが登場した。後年20世紀を象徴する建築家として広く知られることとなるル・コルビジェによる「新精神館」である。極限まで装飾を排した立方体と壁一面のガラス窓でできたパビリオンは、1920年代にはあまりに前衛的であった。機械化の波が社会に変化を与えはじめていたこの頃、いち早く機能美を唱えたコルビジェは、建築への機械の応用を提示してみせたのである。当時のパリは、世界中から集まった若い芸術家たちによってジャポニズム、ロシア・アバンギャルドなどの多様なスタイルが入り交り、新しい芸術への気運が高まった時期でもあった。彼だけでなく芸術家たちの多くは社会の変化に敏感に反応し、機械による技術革新をさまざまな形で取り入れコントロールすることを試みていた。ピカソやブラック、またレジェによるキュビズムを提唱、ピュイフォルカによる前衛的な銀器、ポール・ポワレが発表した直線的なドレスの流行。それらのすべてはけして単純な機械のフォルムの応用などではなく、抽象表現の中に無限の可能性を求めようとする試みだったのである。

 絵画、工芸、建築、ファッションなどあらゆる分野にわたる新しい時代のうねりは、このパリ博を機に諸外国へと広がっていく。多くのアメリカ人はその斬新さを自国に持ち帰ろうとし、加速度的に情報化が進む中で、機械とそのイメージはなかば手放しで受け入れられていった。アール・デコの面白さは、個性的でありながら厳格な様式を持たず国や環境によってさまざまに変化していった点にあるが、ことに産業の発達と生活の変化が著しかったアメリカにおいては、より大胆で大衆的な傾向が見られる。機械のイメージを与える幾何学模様はあらゆるものに登場し、流行のスタイルとして商業的にも大きな効果をもたらした。モチーフとしては円、直線といった抽象的な形、色では強い原色と光輝く金属色が一番の人気であった。今回取り上げた作品の内、書籍とトレイには、生産者や時期が異なるにもかかわらずほぼ同じパターンが用いられている。量産化によるコピーと見ることもできるが、このデザインスタイル自体が、アレンジを必要としないほど他にない強烈な個性をもっていたのは確かであろう。それぞれの作品の存在感の大きさが、何よりそれを実証している。