アメリカン・アールデコ・コレクション

2014.05.03
 
 

コレクションシリーズ vol.16

「Modern Ladies」モダン・レディー アメリカ:ビューティビジネスの幕開け

「Modern Ladies」モダン・レディー アメリカ:ビューティビジネスの幕開け(フライヤー・イメージ)

「Modern Ladies」モダン・レディー アメリカ:ビューティビジネスの幕開け(展示会場)

20世紀、近代化と2つの大戦の中で女性のライフスタイルは大きく変容を遂げた。1910年代から20年代のヨーロッパ、アメリカでは、教育を受けた女性の増加、参政権運動の高まりから、女性の自立が叫ばれるようになった。1920年には合衆国憲法が改正、ようやく参政権が与えられた女性たちは窮屈なコルセットを完全に脱ぎ捨て、「ワーキングガール」として家庭から飛び出し、社会に進出。中には「フラッパー」と呼ばれる享楽的な若い女性たちも現れ、従来の“女性観”を覆すショートカットに濃い化粧、喫煙、飲酒を厭わない大胆な行動で社会に衝撃を与えた。彼女たちを中心とする最先端のファッション・スタイルはヨーロッパ、アメリカのみならず、大正期の我が国にもモガ(モダン・ガール)の流行をもたらした。

 1920年代、モードの中心はフランスから経済発展を遂げたアメリカに移り、新しいファッションはハリウッドを中心とした映画やショービジネスにのって、大きく広がりを見せるようになった。プラチナ・ブロンドに細い眉のジーン・ハーロウ、中世的な魅力と憂いを含んだ表情でトップ女優として名を馳せたマレーネ・ディートリッヒ。この時期、美しい女優たちはスクリーンの中で最先端のモードをまとい、メーキャップによって現実離れする程の美しさを演出した。当時、一般的な女性が日常的に化粧をすることはまだ珍しく、舞台用化粧道具も限られていたが、そんな中、1914年にチューブ入りの化粧品を開発し、スターたちに絶賛されたのが、バレエ団のメーキャップ出身のマックス・ファクター1世である。それまで植物油に小麦粉等を塗っていた役者たちは彼の開発を絶賛し、ファクターは多くの俳優、女優から信頼を得た。1937年にはファンデーション“パンケーキ”を世に出し、化粧くずれのないこの商品は、ハリウッドだけでなく、世界中の一般女性に絶大な支持を得て歴史的商品となったのである。

 当時の女性たちはパリのモードはもちろんのこと、次々と誕生するハリウッド映画の中に新しい洋服のスタイルや、ヘアスタイル、メーキャップなどを見つけ、追いかけた。オフィスに出かける毎日のスーツや帽子、ドレスアップする時のドレスやパーティバッグ、どんな場所にも持ち歩ける携帯用のコンパクトやスティック状の口紅など、女性の活動の広がりは新しい消費市場の幕開けでもあった。経済発展により消費文化が大衆のものとなりつつあったアメリカでは、さまざまな層の女性がビューティビジネスの対象となり得たのである。殊に1929年の大恐慌以降には、財産を失った上流階級の特権が失われ、中流階級が文化の担い手となっていった。

 彼女たちの重要な情報源には、映画とともに当時急発展したメディア、雑誌があげられる。1910年代以降、印刷技術の発展と広告収入によって急成長した雑誌業界は、ハイクラスのビジネス誌から庶民向けの娯楽誌まで、多くの情報と広告を満載した雑誌を発刊した。女性向けの雑誌には、“レディス・ホーム・ジャーナル”や“デリニエイター”、“マッコールズ”など、ターゲットやテーマを変えた数々のファッション誌がある。これらの雑誌は、常に最新のモードを掲載し、美しい表紙もあいまって、当時の女性たちを魅了したことであろう。

主な作品

雑誌「デリニエーター」 鏡台と椅子

雑誌「デリニエイター」/1931年3月号表紙
デリニエイターはファッション企画や海外小説など多彩な要素を盛り込んだハイクラスの女性誌。ダイネバー・リスのイラストは女性の表情をクローズアップして細密に描き、大胆に抽象化された背景とのコントラストで何号も表紙を飾っている。トルソー部分だけでも帽子や小物、髪型や、メーキャップなど、当時のファッション・トレンドが十分に伺える。(写真上左)

鏡台と椅子/ハーマン・ミラー社/1930年代中期
大型の鏡台と椅子のセットが豪華な逸品。鏡台の脚、引出しの形状、椅子の背面部分の意匠が丸い鏡とともに1930年代のアメリカのアール・デコ期の特徴を伝える。引出しの取手部分にも同様の配慮がなされ、大胆かつモダンなセットとなっている。光沢のある黒のラッカー仕上げはこの時期人気のあった仕上げで、類似の家具が多く制作されている。(写真上右)

ドレッサー・セット

ドレッサー・セット/1930年代後期
プラスチックと金属を組合せた手持ち鏡、ブラシ、コーム、パウダージャーのドレッサーセット。真鍮と一見クリスタルのように見える透明なプラスチックがモダンな雰囲気を演出している。科学技術の発達によって生まれたプラスチックは1920年代の人気の新素材であり、中でも透明度が高く硬質なプラスチックは当時まだ珍しいものだった。(写真上)

コンパクト カレンダー

コンパクト/1930年代中期
アール・デコの典型的な幾何学模様が印象的なコンパクト。模様のパターン同様、色彩も金属色と黒や原色などのはっきりした色の組合せが好まれた。コンパクトは外出の機会が増えた女性にとっての必需品となった。粉用コンパクトと口紅、などのセットも多く制作され、これらの品が当時の女性にとって大切なファッション小物でもあったことが伺える。(写真上左)

カレンダー/Printz-Biederman社/1937年
シンプルな女性のシルエットが美しいカレンダー。1930年代には、印刷技術の発展とともに雑誌、ポスターなど紙媒体の広告メディアが増加し、多くのアーティストがイラストレーションなどの広告デザインを手がけるようになった。美しい女性と花をモチーフに、この時期好まれた大胆かつシンプルな表現でモダンな女性のイメージが表現されている。(写真上右)

雑誌広告「LUCKIES STRIKE」 雑誌広告「Max Factor」

雑誌広告「LUCKIES STRIKE」/Companion掲載/1930年代中期
1941年にレイモンド・ローウィがパッケージのリ・デザインを手がける前のラッキーストライクには緑色が使われていた。当時煙草は女性のファッション小物の一つであり、コンパクトケースとシガレットケースのセットも多く制作されている。女性雑誌“Companion”に掲載された広告で、女性が煙草の重要な購買ターゲットだった事を伝えている。(写真上左)

雑誌広告「Max Factor」/LIFE掲載/1938年
マックス・ファクターは舞台のメーキャップ出身で、ハリウッド女優らに撮影のライトにも映える高機能なメーキャップ用品を開発、絶大な評価を得た。便利で美しく仕上がる化粧品は一般女性にも高く支持され、次々とヒット商品を誕生させた。バリエーション豊富なギフトセットの広告には、「ハリウッドからのギフト」のコピーがおどる。(写真上右)

クリーム・ケース2種、パウダー・ケース1種

クリーム・ケース2種、パウダー・ケース1種/1930年代初期~中期
女性の社会進出やハリウッド人気から一般女性に化粧の習慣が広まったことで、コスメティック市場は大きく発展した。自宅で使う化粧品だけでなく、外出先の化粧直しに携帯できる化粧品は身だしなみに気を使う女性の必需品となり、美しいパッケージデザインを施されたミニサイズのクリームケースやパウダーケースが次々と生産されていった。(写真上)

雑誌「サタディ・イブニング・ポスト」 雑誌広告「GUERLAIN LIPSTICK」

雑誌「サタディ・イブニング・ポスト」/1939年5月20日号表紙
サタディ・イブニング・ポストはアメリカの中流階級向けに発刊された人気誌である。表紙には毎号美しいイラストレーションが採用され、当時のアメリカ国民の生活を切り取るかのようなそのスタイルは長く人々に愛され、多くの購読者を誇った。この号では、自動車の水はねをよけるファッショナブルでキュートな女性たちを描いている。(写真上左)

雑誌広告「GUERLAIN LIPSTICK」/掲載誌不明/1938年
ゲランは1840年代にパリで成功した香水メーカーである。1910年代には好景気にわくアメリカを重要な市場として見据え、美しいビジュアルで広告展開をおこなった。1920年代には香水以外の化粧品も多く展開し、アメリカ女性を魅了した。シンプルなパッケージがモダンなリップスティックの広告は、香水の広告とシリーズで展開されたもの。(写真上右)

デザインミュージアム・コレクションシリーズ vol.16
「Modern Ladies」モダン・レディー アメリカ:ビューティビジネスの幕開け
1920年代から30年代のアメリカ女性を魅了した衣服や装身具、雑誌、雑誌広告など約150点を取り上げ、自由でモードな感覚を関連資料とともに展示、紹介。
会期:2011年3月30日(水)〜5月15日(日)
会場:国際デザインセンター・デザインミュージアム
主催:株式会社国際デザインセンター