全体講評
 
船曳鴻紅 Coco Funabiki
第1次・第2次審査委員長
デザインコンサルタント/日本

昨年、第5回「名古屋デザインDO!」のテーマを決定する委員会は大いに揺れた。それはここ数年、メディアが仕掛けるデザイン・バブルの潮流がデザイン界全体を覆うようになってきているからだ。「いったい何のためにこのデザインはあるのだ」と問いただしたくなるような、商品とも作品とも言いようのないものがあふれ始めた危機感から今年のテーマは設定されている。従って、いつに増して主張がきちんと見える作品が応募されてきたのは、作品の社会性を明解に問う「だれかのために」というタイトルに素直に反応してきたものだと言うことができよう。
しかしそれだけでは物足りない。社会に対して主張するもの、社会的に有用なものを構想するだけではデザイン行為とはなり得ないというのが私の考えだ。「対話と協同」と加わったのは、これからのデザインには様々なジャンルの人々とのコラボレーションが不可欠であり、そこにおける対話と協同のプロセスが大変重要な意味をもつことに気づいてほしいという願いからだった。応募作品の段階ではまだそれが見えてこなくても、入賞者を中心とするこれからの名古屋ワークショップがその役割を果たすことを心から期待する。

 
伊藤豊嗣 Toyotsugu Itoh
第1次・第2次審査員
グラフィックデザイナー・名古屋造形芸術大学短期大学部教授/日本

日常、私自身が関わっているビジュアルデザインは、今回のテーマの中にある、まさに「対話(コミュニケーション)」に携わる領域である。応募作品の中には、従来からのデザインコンペへの出品形態の典型であるポスター(不特定多数にメッセージを発していく広告)から、それぞれに用途のある日常のツールに新たな視点でコミュニケーション機能を備えようとするもの(それによって具体的に「対話」と「協同」が発生するもの)まで様々なものが見られ、楽しく審査に関わることができた。
ポスターなどは、それ自体では一方的に発信するまでの媒体である。「誰かのために」なるようにと、しっかりメッセージを込めれば、今回のテーマにかなっているといえるが、具体的な「対話」と「協同」を生み出すところまでを提示しているかと問われれば微妙だ。入賞・入選のレベルに入ったポスター作品は、いずれもメッセージしている内容や発信力では申し分のないものだったが、審査の過程で上記のような視点について何度か議論に上がった。
応募要項の趣旨からだけこの点を読み取ることはなかなか難しく、明確にしていくには応募の規程にまで踏みこんで条件づけをしていくことも必要だと感じた。

 
桐山登士樹 Toshiki Kiriyama
第1次・第2次審査員
デザインプロデューサー/日本

審査にあたり本年度のテーマを何度も何度も確認した。「だれかのために〜対話と協同〜」。まとを得たテーマ設定であり、こうしたテーマを設定しなくてはならないところに人類の進化に対する警告がある。この5回目となる国際コンペティション「名古屋デザインDO!」は、実に健全なコンペであり、審査であった。最終審査会が公開であったこともよかった。実はこんなところからコミュニケーションのきっかけが芽生える。昔は暗黙地で共有がされたことが、いまはオープンでディベートしなくては生きていけない。しかし、個々のアイデンティティとは別に対話は多様な進化を遂げている。
私の個人的なグランプリは、1次審査から決まっていた。Jacob Strand Nielsenさんの「HomeUnit」である。不幸にも地震や災害で家を失ったら、せめてもこの程度のスペースは確保したいと本気で思った。パブリックとプライバシーの領海線のデザインは、今後もっと真剣にトライアルすべきテーマである。

 
宮脇伸歩 Nobuho Miyawaki
第1次審査員
(株) INAX 総合技術研究所空間デザインセンター長/日本

私は、1次審査のみの参加であったが、デザインの力を改めて確認するとてもよい機会となった。シンプルながらも強いメッセージを発信する力や、弱い立場の人への思いやりある解決策を提示する力である。私の審査委員としての役割は、メーカーとしての視点から評価するということだと自覚していたつもりだったが、テーマに感化されて非常に情緒的に審査したように思える。日常でも人々の暮らしをその立場にたって考えることを仕事としているし、デザイナーという職能自体がだれかのためになるように、その立場になりきって(その人を自分に憑依させてともいったりするが)思いを発信したり、問題を解決することだからかもしれない。
今回入賞・入選したどの作品にもそうした愛情深い思いのほとばしりが感じられて、心が熱くなるとともに、頼もしさも覚えた。今回参加された、世界のこれからのデザイナーの皆さんが、それこそどういう対話と協同を生み出していかれるか、期待している。

 
サーニャ・ロッコ Sanja Rocco 
第1次・第2次審査員
アートディレクター/クロアチア

名古屋デザインDO!のコンセプトは独創的で、若手デザイナーの創作意欲を掻き立てるものだと思う。審査員にとって優秀作品を選ぶのは難しいことではなかったが、賞の決定は困難を極めた。
受賞作を振り返ってみると、どの作品にも共通して見受けられるのは強いヒューマンメッセージだ。「LIFE ALARM」はコミュニケーションが欠如し、他人の問題に興味を示さない現代社会において、危機的な状況にある人々の命を救う素晴らしいアイデアだ。「mobile medical container」は津波、火山噴火や地震など世界中の様々な災害時において実用的だ。また、医療機関が不足している開発途上地域でも大いに役立つであろう。「マッチ棒森林ポスター」のシリーズは環境保護を訴える強い視覚的・哲学的メッセージが込められている。
受賞作のうち特に印象的だった銀賞2作品についてもコメントを寄せたい。「iSAVE」は、限りある水資源を節約することを人々に周知させるための良い取り組みだ。また、「Communication Tape」は非常にシンプルなアイデアにも係わらず、何かを梱包して送るときにメッセージを添えることで、母親、友人、パートナーとコミュニケーションできる素晴らしいものである。

 
マーサ・ベイトマン Martha Bateman
第2次審査員
マーサ・ベイトマン・コンセプツ(MBC)最高経営責任者/南アフリカ

日本はあらゆる経済分野において最先端技術を誇り、繁栄している先進国である。日本でデザインされ製造された製品は世界的に認められ高い評価を得ている。今回のコンテストに与えられたテーマにより、世界的に適用するコンセプトやアイデアが生み出されるのを見ることは非常に興味深いことであった。応募作品はレベルが高く、審査員にとっても全員でひとつの結論を出すのは容易なことではなかった。しかし、私としては、入賞・入選作品はみな今回のテーマに即しかつ持続可能なデザインであり、すべてが受賞にふさわしい作品であったと思う。
私はグローバルな視点から、また「だれかのためにー対話と協同」という今回のテーマを念頭におき、常にこのテーマの基準に照らし合わせながら、審査に臨んだ。アフリカ大陸からやって来た私にとって、グローバルであると同時にアフリカにおける必要性という点を、判断の基準にすることが重要であった。
「LIFE ALARM」は、世界中で慢性的な症状や病気を患っている多くの人々の命を救う可能性を秘めたすばらしい作品だ。不必要な死を防ぐことができるだろう。この作品はテーマそのものを物語っている。個人的なコメントとしては、外観をより美しく、また使いやすくするために人間工学的な改良の余地があると思う。
この審査に参加できたことは大変光栄であった。名古屋が今後もデザインシティとして発展されるように心より祈念する。