長大作のデザイン・ワーク
その視点

合板小椅子
▲合板小椅子(天童木工)1953年
   40年以上のロングセラーを誇る代表作「低座椅子」をはじめ、数々の名作椅子を生み出してきた長大作氏。一貫して良質なデザイン、良質な暮しを追求し、けして奇抜さや流行の派手さを狙わない氏の作品は「本物のよさ」が問われ、見直されはじめる中でますます輝きをましている。その確かなセンスとクオリティの高さ、ものづくりへの姿勢は希有な存在といえるだろう。

   氏の仕事の基本となっている住宅設計と家具の設計を総合的にとらえるスタイルは、大学卒業後に入所した坂倉凖三建築研究所で培われたところが大きい。当時は市販の家具によいものが少なかったこともあるが、坂倉の研究所では一角に常駐の職人がいる小さな工房があり、公共空間や住宅の設計をてがける以上、内部で使われる家具もつくることは当たり前のことだったという。ル・コルビジェのアトリエで学び、パリ万博日本館でグランプリを受賞した坂倉凖三はジャン・プルーベやシャルロット・ペリアンなどとも交流が深く、家具に対する研究心の強さは長氏の創作活動にも大きな影響を与えることとなった。

   氏は家具のデザインにおいて「リ・デザイン」という考え方を論じているが、代表作であり、近年「DAISAKU CHAIR」の名で復刻販売され内外で人気を呼んでいる「合板小椅子(ダイニングチェア)」(=写真左=)は、坂倉研究所時代にめぐりあったジャン・プルーヴェの代表作「食堂小椅子」の流れを汲むものという。コルビジェの協力者であるジャン・プルーヴェの小椅子はプルーヴェの得意とした素材である鉄を構造体として使ったものである。この椅子を大変に気に入っていた坂倉氏の研究所では、1940年代より鉄の脚を木製に置き換えてリ・デザインする試みが何度もなされていた。参加した長氏は何年にもおよぶさまざまな試みの中で座面や背のカーブを生み出し、ようやく自分のデザインと言える「合板小椅子」に辿りついたという。この椅子は発表当時から人気を呼び、結果的に長氏の椅子づくりの原点ともいえる存在となった。

 リ・デザインとは影響を受けた作品をよりよく、出来うるものならば越えようとする試みであるが、単なる物真似でない独自のデザインにまで高めるのはけして容易なことではない。長氏はこの一見まったく異なる2つの椅子を通して、本来の意味での「リ・デザイン」を提言している。展示ではこの2脚は勿論、その間に数々の試行錯誤を加えて制作された椅子を、現存する貴重な作品で時系列的に紹介するほか、長氏の代表作である「低座椅子」が誕生するまでになされたリ・デザインの過程をお見せする。

 また、今回の展示の特徴的な要素としてあげられるのが1/1図面の公開である。合板小椅子の座面、背面のデザインの際、数えきれない程のカーブを描いたという長氏は、現在も椅子のデザインにあたって1/1図面の制作を重要視する。頭の中で計算された図面だけでなく、原寸サイズの線や形状を体で感じ取りながら描くことは、長氏のデザイン観の現れと見ることができるだろう。ひとつひとつ真摯な姿勢で積み上げてきた氏の作品には、身近に置きたくなる確かな魅力が宿っている。是非この機会にその作品とものづくりの姿勢に触れていただきたい。

鈴木民/(株)国際デザインセンター・デザインミュージアム担当
三つ脚丸座三角スツール ちょうスツール
▲三つ脚丸座三角スツール(木曽三岳奥村設計所) 1996年 ▲ちょうスツール(木曽三岳奥村設計所) 1992年

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