IdcN 海外最新デザイン情報パワートーク第3弾 レポート

日本のパブリック空間を見直す契機として
IdcNパワートークレポート


紫牟田 伸子(デザインジャーナリスト、日本デザインセンター情報デザイン研究所長)

   10月12日、デンマークからデザイン事務所「コントラプンクト」の代表、ボー・リンネマン、キム・マイヤー・アンデルセンの両氏と、カナダからグラフィックデザイナーで次期ICOGRADA会長となるロバート・L・ピータース氏の来日を機して、プレゼンテーションとトークショーが開催された。開催テーマは「パブリックという場のデザイン」とされたが、このテーマ設定の背景には、日本におけるパブリック(公共)という概念が曖昧だということがある。どこがパブリックであり、そもそもなにが「パブリック」であるのか、日本においてはその境界は判然とせず、デザインにおいても未成熟な部分が多い。

 今回のプレゼンテーションに迎えたコントラプンクトはデンマーク官公庁のCIデザインを手がけており、10年前の外務省を手始めにひとつひとつ行なわれたCIデザインは、彼らのデザインアイデンティティが透徹された秀逸なものだ。当初は「斬新すぎる」「カラフルすぎる」と拒否反応が多かったそうだが、EC(ヨーロッパ共同体)の成立に伴い、各国の官公庁の存在自体が変化しつつある現在では、むしろ時代を先取りしたものとして、デンマークのみならず、ヨーロッパ全土において良い先例として受け入れられているという。

 コントラプンクトが提示した、ECという大きな共同体のなかで各国が部分になっていく、という国際性と地域性の問題と関連して、次にプレゼンテーションしたピータース氏は、氏が各国を視察して撮りためたスライドをみながら、アフリカや中近東、カナダ等々における、グローバルというよりはむしろ、地域的なアノニマスな記号としての公共性をもつデザインを紹介し、デザインの本質的な機能について語った。氏は、その中で社会に対してどのように挑戦でき、情報をどのように整理整頓しながら人に伝えるていくことができるか、という意味で大きな役割をもつグラフィックデザインのあり方そのものが変化している、という点を指摘した。

 コントラプンクトの提案の斬新さとそれを受け入れた官公庁の意識の高さに、日本の状況とは大きな違いを感じたのは私だけでなく、会場からも「日本の公共のデザインはいいとは思わない」「そもそもパブリックといったときにどういう人が対象になるのか」といった質問が相次いだ。来日して間もないパネリストにとっては、「日本の公共のデザイン」にはふれる時間があまりにも少なく、日本の現状を踏まえての深い議論を行なうことはできなかったが、むしろ日本のデザイナー間で「パブリックとはそもそもなにか」という意識の端緒を開いたという意味で、興味深いものがあった。前回のパワートーク同様、ここで提起した問題点を回を追いながら、深化させていくことこそ、パワートークの意義でありつづけるだろうと思われる。


日時 2000年10月12日(木)/トーク=15:00~18:00、交流会=18:30~20:00
◎定員80人◎参加無料(但し交流会は1,000円)
主催 (株)国際デザインセンター
共催 (財)名古屋都市センター
会場 名古屋都市センター・大研修室(名古屋市中区金山町1-1-1金山南ビル11階)
スピーカー コントラプンクト社/CI(デンマーク)
ロバート・L・ピータース/グラフィックデザイナー(カナダ)
進行=紫牟田 伸子(デザインジャーナリスト)
お問い合わせ 株式会社国際デザインセンター
460-0008 名古屋市中区栄3-18-1 ナディアパーク・デザインセンタービル
電話:052-265-2105 FAX:052-265-2107
企画プロデュース キュー・リーメイ・ジュリア(国際デザインセンター・海外ネットワークディレクター)

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