|
ヌースフィアから名古屋へ来たバイオスフィリアン
国際デザインセンターが海外のデザインの最先端事情を提供するトークとディスカッションの企画、2000年最初の講演会には、異色の講師、マーク・ネルソン博士をお招きした。 博士は、アメリカ・アリゾナ州で91年から2年にわたり行われた、密閉されたドームの中で水や空気、食料といった限られた資源のすべてをリサイクルしながら自給自足の生活を送るという実験的なプロジェクト、「バイオスフィア2」に実際に入った研究者で、環境プロジェクト会社、グローバル・エコテクニックス社の副会長でもある。100人を越えるデザイナーや教育者、ビジネスマンへ向けて、わかりやすい口調で語りかけた。 ダイアグラムの解説にはじまった講演。宇宙全体を表す円の中に「技術圏(テクノスフィア)」、「地球圏(ジオスフィア)」、「生命圏(バイオスフィア)」と人の“美、崇高、達成”という価値観を反映した「文化圏(エスノスフィア)」という4つの圏。そして、これら4つの交わるすべての中心に「精神圏(ヌースフィア)」、人間特有のすべての知的研究活動が行われる領域が描かれていた。
|
||||||
|
|||||||
「現代は生きるのに素晴らしい時代。
なぜなら、次々に形を変えて起きてくる問題こそが、 新しい解決策を私たちにもたらすから」 ―マーク・ネルソン博士― |
|||||||
|
|||||||
これは、去る1月に開かれた講演会「21世紀のデザイン・パラダイム」でのマーク・ネルソン博士の言葉だが、博士の経歴を見れば、博士自身が常にそういった現場に身を置きつづけてきた人であることがわかる。「精神圏(ヌースフィア)」、すべての知的研究活動はいつの時代も人類とともに成長し、博士は、その存在意義をそれ自らが立証するものであることを検分する現場に立ち会ってきた人だ。 グローバル・エコテクニックス社は、バリ島、ニユーメキシコ、オーストラリア奥地など各地で、それぞれの地域特性に合った多様なプログラムを展開している。例えば、排水処理プログラム、健康とイノベーション(創意と工夫)啓蒙を目的とするセンターとして運営される農場、過剰放牧された牧草地において多様な生物種が存続できる生態系を探るプログラム。その他、プエルトリコで1982年以降行われている熱帯雨林の肥沃化プログラム、75年からはじまった地中梅地方における会議用施設を併設した15エーカーのエコロジーファーム、また2000本にのぼる植林によって復興し現在イノベーションセンターとして機能している135エーカーの高地砂漠など。 同社の時代に則した柔軟性のあるビジョンを裏付ける実例として「プラネタリー・コーラルリーフ・ファンデーション(PCRF/地球珊瑚礁 保護財団)」の活動を短く収めたビデオが紹介された。PCRFは、珊瑚礁の実態を研究し、サテライト映像を使った珊瑚礁 のモニター技術を開発することによって、地球規模の気候環境の解明に貢献し、また原生海域で生態系を保護する新しいアイデアも生み出してきている。 この他いくつものプロジェクトが紹介されたが、いずれも、結果がものを言う世の中で同社が成果 をあげていることを証明している。「バイオスフィア2」を収めたビデオも上映された。軍用ジェット2機分に相当するおよそ2億ドルを投じて建造されたこの壮大なプロジエクトは、人々の知的高揚心を駆り立て、他方面 の支援を得た結果、費用を抑えて完成にこぎつけることができたと言う。NASAでこれを造るとしたら青図段階だけでもこれより高いものについただろうと言ったという、NASAで働く博土の友人のエピソードも紹介された。資金を投下しがたい基礎環境科学の分野において成し遂げられたこの進歩は、お金には換算できないほど貴重なことだったのではないだろうか。 しばらくの間「バイオスフィア2」は、失敗作として米国のメディアにはさんざん酷評されたが、酸素濃度の低下といったような、外界では再現することのできない隔絶状況下で起こったアクシデントは、バイオスフィリアン(バイオスフィア2における生活実験者)が受けた影響についての医学的研究に道を開き、同時にこの領域の専門の研究者を輩出した。現在「バイオスフィア2」は、メディアの評判を取り戻し、コロンビア大学のアースセメスターといった教育プログラムのための研究施設として有効活用されている。博士の次なるフロンティアは? 現代はもはや、60年代のような安易なテクノロジー先行の宇宙開発競争を善しとする時代ではない。博士は、今やテクノロジーは、人間が目指す方向を決定するのではなく人間の方向性に資するものでなくてはならない、と指摘した。「バイオスフィア2」の設計段階では相容れなかったエンジニアとエコロジストが、テクノロジーが地球という生命圏において不可欠な要素であると納得した上でこのプロジェクトに取り組む必要がある、と学んだ。 プロジェクトを通して得られたこの知的な飛躍によって、私たちは今、「バイオスフィアl」、つまり地球についての新しい理解の上に立って宇宙空間に生きる可能性を見い出している。 |
|||||||
■マーク・ネルソン講演会「21世紀のデザイン・パラダイム」 期日:2000年1月26日(水) 会場:名古屋都市センター11階大研修室 主催:(株)国際デザインセンター・(財)名古屋都市センター ■マーク・ネルソン博士 1947年ニューヨーク・ブルックリン生まれ。アリゾナ大学再生可能天然資源スクール分水界管理学部修士。フロリダ大学湿地センター環境工学部博士。1993年、宇宙および環境の分野で、国際協力推進における優れた功績に対しロシア飛行学連盟より与えられる名誉賞、「ユリ・ガガーリン・メダル」を受賞 |
お問い合わせ | 株式会社国際デザインセンター 460-0008 名古屋市中区栄3-18-1 ナディアパーク・デザインセンタービル 電話:052-265-2105、FAX:052-265-2107、e-mail:voice@idcn.jp |
|
企画プロデュース | キュー・リーメイ・ジュリア(国際デザインセンター・海外ネットワークディレクター) |