アメリカン・アールデコ・コレクション

2013.02.15

ウォルター・ドーウィン・ティーグ

ベビー・ブローニー・カメラ/左:1940年 右:1938年/共にイーストマン・コダック社
デザイン:ウォルター・ドーウィン・ティーグ

1930年代後期のコダック製「ベビーブローニーカメラ」。コダック社初の樹脂製カメラとなったこのモデルは、軽く、遮光性に優れたベークライトを使用している。成形が自由な樹脂素材ならではのスタイリングも目を惹くが、最大の特徴はターゲットの拡大を狙った入門編カメラを提案した点にある。それまでカメラは精密器機としての機能を主眼に開発、生産され、手軽さや遊び感覚を求めるものではなかった。プロユースが中心だった市場に、低価格、コンパクト、新素材ならではの軽さ、流行の流線型と条件の揃ったこのカメラは、狙い通り話題を集め、一般ユーザーへの普及と拡大に大きな役割を果たす。その人気は、モデルチェンジを繰り返しながら実に1950年代にまで生産され続けたことからも伺えよう。

 デザインを手掛けたウォルター・ドーウィン・ティーグ(Walter Dorwin Teague)は、グラフィック分野から活動を開始したが、1930年代に入るとコダック社において、幾何学模様の美しい「ギフト・コダック」、「ベビーブローニー」、美しい流線型と精密な機能を持った「コダック・バンタム・スペシャル」など、次々に優れたカメラを誕生させた。これらのヒットは彼のインダストリアルデザイナーとしての地位を確固たるものとし、ひいては産業界においてまだ珍しかった”デザイナー”の必要性を広くアピールすることとなった。

 「ベビー・ブローニー」は、当時のデザイナーが担った”大衆に新しい技術の有益さと楽しさをわかりやすく伝える”という役割を示す好例であろう。デザイナーは美的感覚や造形力だけでなく、豊富な知識と広い視野をもち、何より生活を変える新しい提案を描いてみせるプロフェッショナルとして高く評価された。人々に必要とされたその立ち位置は、デザインの現場が細分化しニーズの見えづらい現代において、むしろ意味深く、改めて指針となり得るように思う。ティーグはこんな言葉を残している。「我々デザイナーは大きな建物や小さな道具をつくろうとしているのではない。我々は環境をつくろうとしているのだ」